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Scene3:2002年7月21日東京・原宿→世田谷/「カラマーゾフの兄 弟」現代パロディ

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※Q:下男V系設定の根拠を教えてください

 A:給料を服と整髪料代にぜんぶ使っちゃうギター青年という原作設定があるから

 Q:田園調布って大田区なんですが……

 A:mazide!世田谷区だとばかり思ってました



 約束の時間になっても、弟は原宿駅前に現れなかった。携帯電話も一向につながらない。社会学の実地調査にはもってこいの場所だが、キャッチ目的の男たちに混じって人混みを物色するのも気が引ける。どうしたものかと思ったところで、真っ赤な外車がすうと目の前を蛇行して、止まった。

「弟様がお待ちです」

 出てきたのは若い男だ。車のボディがやけに反射するせいで、顔はよく窺えない。この暑いのに黒スーツに身を固めており、宙に尖らせた銀髪と、耳にじゃらつく胡散臭いピアスがやけに目立つ。むろんこの界隈では珍しくもないいでたちだが、バブリーなベンツとの取り合わせは異様だ。おまけに、この俺に向かってバカ丁寧なお辞儀をする。

「車にお乗りください」

「待ってくれ。これはどういうことだ。おまえは誰だ。弟はどこにいる?」

「申し遅れました。私はお父上のホームヘルパーです」男は答えた。ハスキーな声だ。「弟様から伝言をことづかって参りました。すぐに来てほしいと」

「弟から?」

「時間がございません。お乗りください。弟様のところまでご案内します」

 なるほど、こいつが兄貴の言っていた「キモいV系」か。しかし、いくら不可解な弟とはいえ、こんな素性の知れないやつを俺のところまで呼びにやるとは尋常じゃない。畜生、何か厄介ごとに巻き込まれそうな予感がする。

「分かった」俺はため息をついた。「でも、運転は俺がする。道を教えてほしい」

「……左ハンドルはお慣れですか?」

 慣れているわけがない。V系男の誘導に従って、俺はしぶしぶ助手席に腰を下ろした。カーオーディオから細々と流れていた音楽を切り、男は車を発進させた。駅前交差点の若者たちが物珍しそうにこちらを見ている。このド派手な車じゃ無理もない。芸能人が乗っているとでも思っているのだろう。


 表参道を脱出すると、車の速度は快適になった。V系男はまったく口を利かないが、運転は悪くない。見てくれは珍奇だし、親父に雇われている理由がさっぱり分からないが、多少はまともな奴かもしれない。

「さっきの音楽」俺はオーディオを指差した。「あれ、V系バンドってやつ? かけてほしいんだけど」

 返事はなかった。あまりに間がもたないので、俺は窓の外に目をやる。久々の東京の車窓だ。どうせなら腹をくくってスターバックスコーヒーの出現回数をかぞえるしかない。もう声をかけたことすら忘れかけた頃、V系男は、ぼそりと言った。

「ヴィジュアル系なんて下らないです」

 その言葉の意味を解するために、今度はこちらが黙らなければならなかった。腕を組んで、五分ほど頭をめぐらせる。このストレートな突っ込みはある種の負けだったかもしれない。

「……なら、どうしてそんな格好を?」

 V系男の顔かたちは未だよく見えない。バサバサした銀髪が邪魔だ。ちらと横顔を見やると、青ざめた唇だけが人形のように動いた。

「勝ち組とはちょっと話すだけでも腹立たしい」

「え?」

 俺は椅子から跳ね起きた。何を言ってるんだ、こいつ。

「勝ち組とはちょっと話すだけでも腹立たしい」

 二度目。背筋に鳥肌が立つ。気持ちの悪い奴だ。こんな男の運転する車に乗っている場合じゃない。赤信号になったら降りてやろうと、鞄を抱えてスキを狙ったが、車は一度もスピードを緩めないまま、世田谷区に突入した。

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